「痛い、痛いよおじさん!」
「はっはっは、とりうみ、隙ありだ。…まったく俺たちは犬死確定だってのに、お前はあんなエロ姉妹と一緒に薔薇色の未来か。まったくうらやまねたまブツブツ…隙あり、隙あリィィィィィ」
「よいかとりうみ。ツボは壊せ! タンスは開けろ!」
「それはどろぼうじゃないの?」
「どうせ勇者が世界を救わねば、土民どもも死に絶える。徴発は当然よ! なぁに、帯刀して勇者を名乗れば誰も逆らえんて!」
「いい、とりうみ。お金さえあれば何でも手に入るのよ」
「とうさんはちからが無ければ何も救えない、力なきせいぎはむりょくだって言ってたよ」
「力も買えるのよとりうみ。お前も大人になったらそうね、4000ゴールドも武器屋に投げつけてやりなさい。はがねシリーズでも身に着ければ、多少の修行なんて無になるぐらいの力が手に入るのよ」
「どうやったらお金がもらえるの?」
「……デブとは視線を合わせないことよ。そのうち「とりうみ君、DSあるよ、遊ばない?」とか言ってくるから、適当にあしらいなさい。暗証番号を聞き出したら、デブは馬車に叩きこんで置きなさい。……全く、そんなに金があるなら養育費の前渡ぐらいすればいいのよ……ブツブツ」
勇者とりうみは、予言を知る村人たちによって、大切に、大切に英才教育を施されていた。
「長老、もう限界だ! とりうみの奴、あんな我が侭放題に育っちまって」
「力と金が全て、そんな世紀末テイストの中二病にかかっているわ!」
「先日はついに、シンシアの頭がちょっと弱いのをいいことに……うう」
「静まれ皆の衆。とりうみには幼少から、都会の数々の誘惑に慣れさせる必要があるのだ。この水晶を見るが良い。純朴な田舎者のまま、とりうみを世に放った場合の未来じゃ……」
“どこにいくのもまかせるわ! なんならずっとエンドールにいてもいいのよとりうみ”
“ゆうわくにのりますか?”
“▼はい」”
“ひゃははははは、またスリーセブンだぜ。見たかマーニャ!”
“あーんもう、とりうみ最高! 抱いて!”
“まったくもう、姉さんもとりうみも、私がいないと駄目なんだから……ほら、そこのデブ。このツボを5万ゴールドで買わないと女房と子供が狂い死ぬわよ”
「なんてことだ……」
「妻公認の奔放な愛人と、生活を支える賢妻……完璧な堕落コンボじゃないか」
「欲望に流されないように、禁欲的で真面目に育てれば……」
「そんな抑圧された禁欲など……童貞があんな姉妹と無欲に旅などできるものか!」
「閉鎖環境で育った優等生に力なんて与えれば、僕は新世界の神になるとか言い出すに決まってるわ!」
「そう……魔王の悪の力を制するには、それ以上の悪を! 世界の半分などでは妥協せぬ徹底した悪が必要なのじゃ!」
「何が善で何が悪かなんてことは、後世の歴史家が語ればいいわ。そして歴史は勝者が紡ぐものなのよ」
……。
「いいかい、とりうみ。洞窟で売女どもが襲ってくるようなことがあれば、実力で誰が主人かをわからせてやるんだ」
「でもね、そのあとはうんと優しくしてやるんだよ……」
「流れ者なんてそれで一発さ!」
勇者とりうみは、予言を知る村人たちによって、大切に、大切に英才教育を施された。
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5章に入りました。うちの勇者とりうみも、「ぼうぎょ」しかしていないけどレベル10くらいにはなりました。装備は全て、流れ者の姉妹が買い与えてくれています。ドサ健さんも、女は博打打ちの最後の財産だ、いざとなれば転がり込んで寝て食うぐらいはできるし、売れば金になると言っていました。早く財布に合流して、おいデブ、メッコール買ってこいよと言いたいですね。
「ワンワン!(今日も大漁でしたね、トルネコさん!)」
「そうだねぇ、雑種。特にこのてつのよろいは拾い物だね」
「ワンワン!(でもホイミスライムの落し物なんてキモくないですか?)」
「いやいや、あれが最高なんだよ…がいこつけんしが着込んだ、死臭漂う鎧なんて誰がほしい?」
「ワンワン!(ぼくはちょっとほしいな、ほしいな!)」
「うふふ、お前は馬鹿だなぁ、雑種。いいかい、ホイミスライムが、鎧ばかり立派な倒れた駆け出しに取り付くだろう。大方貴族の師弟か何かさ。あいつらはすぐに殺すような無粋はしない。チュウチュウ、チュウチュウとあのいまいましい触手で生かしたまま吸い尽くすのさ。まずは目玉、次は内臓。うまいところから順番に……だが、最後には髪の毛一本残さず、あの愉快面のゼリーの養分になる。脂も残さず舐めつくした鎧は、新品同様に売り捌けるってわけさ」
「ワンワン!(でもどうしてトルネコさんは、遠くの城まで売りに行くの?)」
「ボンモールは戦争を控えているのさ。雑種。お前は戦争経済という物がわかるかい?」
「ワンワン!(わからないよ、ぼくにはトルネコさんがわからないよトルネコさん!)」
「ボンモールはエンドールの富を欲している。田舎王には過ぎた野望さ……だがね、おかげで防具がとても高く売れるんだ」
「ワンワン!(まちにうってるよろいじゃだめなの?)」
「一帯の商会ギルドはつながっているからねぇ。商会の印入りの商品じゃ、無茶な商売はできない。だが、不幸な行き倒れに譲ってもらった商品を、城の大臣に直接売りつけても……」
「ワンワン!(市場の販路を通さずに商売ができるんだね!)」
「そういうことさ。市価が1200、仕入れが900の商品が1500近くで捌けるんだからね……一日頭を下げて100やそこらの、田舎武器屋の店番なんて、馬鹿らしくてやってられないさ。くくく」
「ワンワン!(でもトルネコさん、この前は500ゴールドはもうかったかったって!)」
「ああ、あれかい。これと同じ剣を……(ギラリと輝くはじゃのつるぎ)……売りに来た、食い詰め騎士がいたろう?」
「ワンワン!(うだつのあがらないかんじだったね!)」
「こういう品は、こんな田舎じゃめったに出ない。だからほしい人間には喉から手が出るほどほしい……そしてね、物価というものは需要と供給によってなりたっているんだ。神の見えざる手という奴だね」
「ワンワン!(?)」
「つまり、一割や二割市価に乗せても、欲しがる馬鹿は必ずいるということだよ。そして私の才覚で得た利潤を、あんな親から財産を受け継いだだけの間抜けに差し出す必要があるのかい?」
「ワンワン!(いけないよ、トルネコさん! それはいけないよトルネコさん!)」
「……雑種。エンドール界隈に行けば、毛並みのいい犬の毛皮だって幾らかにはなるんだよ」
「ワンワン!(ひっ)」
「だけどねぇ、雑種。僕はお前を殺さないよ。お前が従順な友達でいる間はね。何しろあの爺さんは、まだまだ小金を溜め込んでいそうだからねぇ……町で一番温厚なトルネコさんが、爺ぃの愛犬を縊り殺したなんて言ったら、聞こえが悪いものねぇ?」
「ワンワン!(トルネコ様、私めに通商の極意の続きをお聞かせくださいませ)」
「そうかい? まぁ、商売なんてシンプルなものだよ。ボンモールが戦争の準備をしているのなら、今のうちに絞れるだけ絞らせてもらうだけさ」
「ワンワン!(戦争になっちゃうの?)」
「いや、そうはならないさ。何しろ僕は、これを握っているからねぇ(懐から、戦争を止めるリック王子の手紙を取り出す)」
「ワンワン!(戦争を止めるの?)」
「あの田舎王には現実が見えていないがね、エンドールは強国だよ。武闘大会を開いて腕利きの戦士を集め、そして彼らを雇用するだけの潤沢な資金がエンドールにはある。実際に開戦をすれば、ボンモールは長くはもたないだろうからねぇ」
「ワンワン!(負けちゃうと、困るの?)」
「敗戦国の運命は悲惨だよ……死なない程度に賠償金をむしりとられ続けるわけだからね。そして増大した戦費と併せて、あの無能な王にできるのは、負担を国民にかぶせることだけだ。そうなれば、この国……レイクナバも含めての経済は死ぬ」
「ワンワン!(大変だ! とめなきゃ!)」
「だけどねぇ、雑種。情報というのは力だよ。僕が……僕だけが、戦争の止め時を左右する情報を握っている。全く、商人に国の命運を託すとは、間の抜けた王子もいたものだ。いずれにせよ、この国も長くないかもしれん」
「ワンワン!(で、でもいずれは届けるんでしょう?)」
「そうだね、この国からもう少し絞ったらな……だけどね、雑種。ボンモールが軍事力を増せば増すほど、この情報は“価値”を増すんだ。どうせ取り入るなら、こんな先のない国より、富めるエンドールの方がいいと、お前も思うだろう?」
「ワンワン!(そうですね、トルネコ様! まったくその通りですトルネコ様!)」
「くくく。見ていろ、ネネ、ポポロ。お前たちに、この国が買えるほどの財を与えてあげるよ……」
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とか、そんなことを考えながら商売に精を出していたら、いつまでたっても3章が終わりません。1章はライアンと人妻を何度も宿屋に泊まらせるぐらいしか楽しみがなかったんですが。ああ、早く流れ者の踊り子と占い師姉妹の乱れた旅に進みたいのに。
鏡音リンの双子、レンくんが発表されました。VOCALOID関係に関しては色々と、情報収集欠かさずしていたのですが、この件に関しては不意打ちだったので本当に驚きました。クリプトンGJ!! 初音ミクに続く第2弾としてどの程度伸びるかが注目されている鏡音兄妹ですが、このオプションでかなり勝算が出てきた気がします。
まず、DTMソフトとして見た場合、声質の幅はイメージの再現性において強力な武器になります。単純な性差に留まらず、エディットによって演歌調やチビロボボイスにも対応するようなので、さわっているだけでも楽しくなりそうなのは間違いありません。そして、さらにこの機能を存分にいじってくれそうなのが職人の皆さん。初めて作ってみたよ、系の動画を見れば、VOCALOID(初音ミク)は単体では声が細く、ボーカルが弱く感じます。チューンでのカバーには限界があるので、巧い人は若干音域等をずらした別声をコーラス的に加えることで音に膨らみを与えているようです。しかし、VOCALOIDは完璧なボーカリストすぎるため、同じような入力に対しては当然同じ出力を返すわけです。ですから、重ねることを前提に、差異を出しながらもバランスがとれるチューニングに職人は血涙を流すわけですが…。最初から少年声、少女声としての使い分けが用意されていれば、ベースとなる音声のバリエーションが劇的に増えます。そして元は同じ下田さんの声をベースにしているのだから、ユニゾンを取る上でのバランスが悪いはずがありません。
また、一下田ファンとしても、今回の発表は純粋に嬉しい。VOCALOID02の第2弾が下田さんと聞いたときに思ったのは、「あの七色のマジカルボイスを、1つの楽器にしてしまうのはもったいないな」ということでした。下田さんの演技の幅について知りたい人は、『乙女はお姉さまに恋してる』のアニメ版を見てみてくださいな。女生徒役で下田さんが喋ってますが、まったくわかりません。ほんとに。もっとも僕は、『リリカルなのはA's』の声を最初に聞いたとき「ヴィータって大谷育江さん?」と口走ったぽんこつ駄目絶対音感の持ち主なので、ブロの下田ィスタの皆さんだと、聞いた瞬間わかるのかもしれませんが。
声のバリエーションの多さという意味では、下田さんの物まね達者ぶりを思い出す人が多いと思いますが、彼女の真骨頂は、多彩な声色で“芝居”ができること。声優さんには声色に幅がある人が多くいます。しかし、抑えた声音のクールキャラができる人でも、そのキャラクターの個性を維持したままで、「叫び」の演技ができる人となるとぐっと限られてきます。必殺技を叫ぶシーンだけ地声になってしまう人って、結構多いですもんね。この、「キャラを作ったまま歌う」というワンスキルに限定した場合、下田さんは若手声優界では屈指の実力の持ち主なのでは、と思っています。そんな下田さんをひとつの音色に限定して使うのはもったいないなー、と考えていた僕にとっては、少年下田の声が聞ける……という一点でも「鏡音リン」は買いなのです。
ああ、それにしても。赤羽のシークレットライブの頃、下田さんは「亜美真美は人気投票最下位だけど応援してね」というニュアンスのことを元気に、ちょっと寂しそうに言っていました。それがここまでメジャーな存在になるとは、兄(C)嬉しいです。いや亜美真美じゃないですが。