田村ゆかり“Love Live 2008 *Chelsea Girl*”日本武道館公演に行ってきました。武道館は桜満開。九段下の駅を降り、田安門を潜って武道館にいたるまで、周囲は桜、桜、。隣の靖国神社はお祭りの真っ最中。まさに田村ゆかりのライブをやるためにあるような場所・時期と言えるでしょう。物販は開場4時間前には行列が打ち切られる地獄だったようで、史上まれに見る人手。やはり、“夢とファンタジーの国「ゆかり王国」の姫、ゆかり姫が5歳の時にお歌いあそばされた伝説の国歌”の会場限定CDの引力は強力だったようです。
とはいえ流石武道館、観客入場の導線が洗練されていることもあり、入場はほとんど止まることもなくスムーズでした。指定席ライブでのお約束、ピクトチャットでくだらないことを話していたのですが、年齢は?「17歳」「17」「17さい」「17」「19! みんな若い!」というやり取りに非常に心温まりました。5分ほど遅れて、ライブはスタート。その瞬間、会場全体にピンク色の花が咲きます。会場全体をリウムで染めるといえば、感動のAice5ライブが思い出されます。しかし、会場全体がピンク色に染まるのは、ゆかり王国ではいつものこと。僕はライブレポートのサブタイトルに「武道館、桜満開。」みたいなサブタイトルを考えていたのですが、“シングル「勇気をください」から11年、個人名義の公式デビューシングル「summer melody」から7年、ついに武道館のステージへ”…みたいな設定・感傷は、MCの第一声で吹き飛んでしまいました。
「ライブハウス武道館へようこそ!!」
これは言わずとしれたBOOWYの伝説の名言です。すぐに後ろを向いててれてれになってしまうところがいかにも、ですが。そのあと「ゆかり武道館でやることになってから、DVDいっぱい見たの。あの……………ポルノ、グラフティ、とか? それでね、ライブ見てたら、みんな“ぶどうかーん!!”て言うの。でもゆかりそういうのどこで言ったらいいかわからないから。ライブ中、感極まったら「ぶどうかーん!!」て言うから、そしたらみんな大笑いしてね。みんなゆかりのこと笑いに来たんでしょ!?」みたいな感じで続くんですが。これではもう、「武道館」を過剰に意識している方が馬鹿みたいです。しかし田村ゆかりさんが本当にすごいのは、これだけ前ふりをして、結局最後まで「ぶどうかーん!」を一度もやらなかったことだと思います。
しかしこの“ライブハウス武道館”という単語。意外に深い。今日のライブはとても楽しく、いや本当に楽しくて、“特別”や“感動”といった言葉とはわりと無縁でした。なんせ、MCのテーマに「昨日PSPのモンハン買って、攻略本を、大きいビギナー向けにするか辞書みたいなのにするか迷った」みたいな話を選ぶぐらいですから。そこにあるのは田村ゆかりのライブの「日常」そのもの。ちょっと物販が5時間待ちぐらい並んだりはしますが、気負わないライブを初武道館でできるようなアーティストが、どれぐらいいるでしょうか。少なくとも僕は武道館のステージで「早く帰ってモンハンやりたいなんて思ってないよ?」なんて言える人を他には知りません(笑)。「2階の南西U-12の人だけめろーん!」→空席→ステージ上でリアルorz→もう一回コール、の一連のムーブには、達人の洗練を見ました(言いすぎ)。もっとも、客席の女の子にもらい泣きしそうなところとかもありましたし、ああいうテンションやトークも照れ隠しなのでしょうね。
もちろん、武道館ならではのメリットもありました。それは、ステージセットやダンサーさん、衣装、特効などに潤沢な予算が使えることです。今回が初ライブの友人が「あの衣装はメイド?」と聞くので「あれはパティシエールだよ(※「お気に召すまま」の時の衣装)」と答えたぐらい衣装チェンジが頻繁でしたし、ダンサーズがゆかりんにきらびやかな布地をかけると、いつの間にかゆかりんが消えている! のような演出も。中でも圧巻だったのは、花道先端中央に立つと、スルスルスル…と床が競りあがっていって、7メートルの高さから「高いところから失礼します」なんて一幕もありました。正直あの演出は心臓に悪くて、早く無事に降りてくれ、とばかり思ってしまったのですが。
アルバム「十六夜の月、カナリアの恋」収録を中心に定番曲を織り交ぜて、あっという間の3時間。Princess RoseやQTがセットリストからこぼれるとは思いませんでした。しかし、今回の目玉はなんと言っても“夢とファンタジーの国「ゆかり王国」の姫、ゆかり姫が5歳の時にお歌いあそばされた伝説の国歌”こと「めろ~んのテーマ~ゆかり王国国歌~」でしょう。事前には桃色メイツから、ダンスの振り付けを指導される念の入れよう。この振り付けはもろにオタ芸を意識した感じで、思わず苦笑してしまったんですが、声優ファンに複雑な踊りをやらせようとすると大抵ひさんなことになるので、これは正解? ただ、「頭の周りで手を打ち鳴らしながら、左右に3回転ずつ」とかは、武道館2階でやることではないですね。とはいえ回りながらこの曲を聞いてると、なんだか考えるのがどうでもよくなってきました。これは良いボイスドラッグです。
今回のライブは、実はライブ自体が初経験、田村さんのこともあまり知らない友人を連れて行きました。王国の外に人にはどう映るのかに興味があったのですが、予備知識のない彼も十分に楽しんでくれたようです。僕を含めた周囲が、曲によってイントロが始まった瞬間にテンションがハネ上がることには温度差を感じたようですが。やはり、偏見を持たないタイプの人にとっては、サイリウムを持ってリズムをとったり、PPPHをしてみたり、といった行為自体が、かなり楽しいようです。一方、流石に武道館クラスになると、「客席の一糸乱れた統制」とまでは言えない感じになりますし、僕個人は多少、PPPHを乱発しすぎかな? という気がしました。とはいえ、田村ゆかりライブが、客席も含めたエンターテイメントとして、かなり完成の域に近い上質なものであることを、改めて感じさせられる一日でした。声優ライブのコールなどには賛否両論ある昨今ですが、スクリーンに映し出される映像や、炎、照明などの効果演出が、客席からのコールと完全に連動している空間で、コールの是非を論議する、なんてのは野暮以前の話になってしまいそうです。
やはり、重要なのは「客席の統一性」で、みんなが同じ方向を向いていることが大事なんでしょうね。しかし、そうした客席の空気、卓越したグダグダトーク(それが抜群に面白い)といい、田村ゆかりに代わる人というのは、今後も出てきそうにない気がします。優れた歌唱力と天性の声質、驚くほどの頭の回転といった要素の壮大な無駄遣い。だがそれがいい。こういうタイプの人は、「声優アイドルになりたい」が出発点の今の声優志望者からは、生まれないような気がします。
PR
トラックバック
トラックバックURL: