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2024/03/19 18:23 |
それでも三沢光晴は美しかった。
 1999年1月・全日本プロレス大阪府立体育会館大会。三沢光晴対川田利明の三冠戦は、四天王プロレスのひとつの到達点のひとつだったと思います。クライマックスは川田のパワーボムを三沢がウラカン・ラナで切り返そうとする攻防。お互いの重心とパワー、遠心力が均衡したところで、川田が押しつぶす。エビぞったまま、ぐしゃりとありえない角度で潰される三沢。

 ゾっとしました。なんとなく、“壊れる”という予感しかしない潰し方だったから。試合後、府立の裏口に救急車が到着し、僕と友人は居てもたってもいられずそちらに走りました。三沢にもしものことが……と思ったからです。ところが、その日運ばれていったのは、勝ったはずの川田。実は試合中に川田は右腕尺骨を骨折していたといいます。その後、駅に向かう途中のホテルのロビーで談笑する三沢の姿を見て、やっぱり三沢は不死身だと僕らは笑っていました。しかしそれぐらいギリギリのところで試合は行われていたのです。


     *      *      *


 僕は、全日本プロレスを馬鹿にしていた時期がありました。猪木が先頭に立つ新日本プロレスの刺激的な雰囲気に比べて、全日は鈍重な相撲取りがもたもたした試合をしている団体、ガイジンはすごいけど……そんな偏見(と一面の事実)があったのです。それを変えてくれたのが、若き日の二代目タイガーであり、ハンセンに立ち向かう小橋の姿でした。

 90年代中ばから2000年を少し回る頃まで。全日本プロレスと全日本女子プロレス、2つの“ALL JAPAN”が、確かに日本一面白い格闘スポーツだった時期があったと、僕は思っています。エンターテイメントと闘いを両立したプロレスの、ひとつの到達点がそこにあったと。これから、有識者によって技の危険がクローズアップされるでしょう。しかし、四天王プロレスの発明は、頭から落とす危険な技ではありません。あらゆる技の存在を可能にする、美しく、地道な“受け”です。三沢なら、小橋なら絶対に受け切る。それだけのゆるぎない信頼と技術が彼らにはあったのです。

 頭部から落とす危険な技の代名詞である三沢の“タイガードライバー91”ですが、彼がこの技を(多くは受けが未熟な)外国人レスラーに仕掛けることはほとんどありませんでした。外人の巨漢レスラーへのフィニッシュは、多くはエルボー、エルボー、ローリングエルボー。少なくとも全盛期の三沢たちには、身体的リスクと試合の熱狂をハンドリングするだけの力量と神通力があったはずです。

 しかし、社長業にウェイトを移し始めてからの三沢には、当時ほどの絶対的な安心感はありませんでした。誰の目にも明らかなコンディション不良と疲労の蓄積。それでも経営者だからこそ、日本テレビがテレビ中継から撤退し、故障者と不調者の寄せ集めのような状態の今のノアでは、“レスラー三沢光晴”を欠かすことはできなかったのでしょう。


 かつて僕は、JWP女子プロレスのファンでした。ですから97年にプラム麻里子(06/16/3:30プラム選手の漢字訂正しました)選手が亡くなった時に、パソコン通信などで「プロレスはこのままでいいの?」と疑問を提起して、帰ってきた男子プロレスファンから透けて見える「女子の出来事だから」という他人ごと感に絶望したものでした。しかし、何度も立ち止まるタイミングはあったはずなんです。福田選手の死。ブラック・タイガーことエディ・ゲレロの死。後藤達俊のバックドロップで馳が死にかけたのを、僕らは武勇伝のように聞いていたけれど、あれだって本質は変わらない。

 それでも僕らは2.9プロレスを、過激化する必殺技の数々に喝采を上げ続けていました。だから、今回の事故の“責任”は技をかけた選手だけでなく、選手を取り巻く業界や、ファンたち全員にもあるのだということを忘れないでおきたいです。

 だけど、その上で。倫理的に僕らは間違っていたのかもしれないし、これからプロレスは変化を余儀なくされるかもしれないけれど。

 何千回と危険な技をかけ、何万回と危険な技をかけられ続けた三沢光晴のプロレスは、美しかった。明るく、楽しく、激しくというプロレスを誰よりも体現していた三沢光晴は、本当にかっこよかった。みっともない社長腹で、リングに上がり続ける三沢光晴が見たかった。

 数年前に最後にノアを生観戦したのがいつだったかはっきりとは思い出せない、そんな元プロレスファンですが。僕は三沢光晴のプロレスを忘れません。僕の10代の頃のヒーローは貴方でした。ありがとう。
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2009/06/14 07:51 | Comments(3) | TrackBack() | 格闘技
萌えオタでも楽しめる「THE OUTSIDER」入門
 痛いニュースさんで以下のような面白い記事が上がっていました。

素人格闘技大会開催決定 “ストリートファイト東京No.1”や“2ちゃんねらー”も参戦!

 「THE OUTSIDER(アウトサイダー)」という大会は、元プロレスラーの前田日明氏が立ち上げた大会で、「不良たちや、在野のまだ見ぬ素材を集めて大会を行ない、格闘技界の底辺を拡大する」というコンセプトでした。その響きから僕らは、『グラップラー刃牙』の柴千春のような腕自慢たちが、北関東などから押し寄せ、素人のリアルファイトを見せてくれるのだと思っていました。ところが、実際集まった面々を見ると、人相は悪い人が多いものの、「総合格闘技○年」「アマレス○年」「柔道○年」「ブラジリアン柔術紫帯」といった、プロのリングや、アマ修斗(元初代タイガーマスクが立ち上げたハイレベルな総合格闘技のアマチュア部門)の上のほうでやるにはちと物足りない経験者がゴロゴロいる、ごく普通の総合格闘技の登竜門的空気が漂ってきてしまいました。

 しかし、募集の仕方が仕方だっただけに、中には凄玉がいます。瓜田“現在20代後半の世代のアウトロー界のカリスマであり、路上の喧嘩、および関東広域での武勇伝、エピソードは数知れない。路上の喧嘩で現在活躍中の有名格闘家達をKOした、土下座させた…など数々の逸話を持っている@wikipedia”純士さんや、原田“2ちゃんねる格闘技板素人代表”桃丸さん、加藤“夜櫻会三代目総長”友弥さんなどです。彼ら路上のレジェンドたちと、人相の悪い格闘アスリートたちがリングで激突する……そう、これはリアル『ホーリーランド』として見るのが正しい大会だと思います。『バキ』や『ホーリーランド』が好きな人にはぜひ注目してもらいたいので、初心者向けの「THE OUTSIDER」、そして総合格闘技の見方入門を書いて見たいと思います。

●寝技>>立ち技の競技性
 2008年現在の総合格闘技は、立ち技だけでも、寝技だけでも勝つことは難しくなっています。何らかのバックボーンを持った上で、スタンド(立ち技)にもグラウンド(寝技)にも対応できる、総合格闘家同士の戦いがほとんどなんですね。ですから、現在の洗練された総合格闘技は、必ずしも「OUTSIDER」の完璧な教科書にはなりません。「柔道家対空手家」のような、異種格闘技によるガチンコのサンプルとしては、1993年当時の米国UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)が適当だと思います。UFCは現在の総合格闘技の礎となった大会ですが、第1回当時は、得体の知れない有名無名の格闘家たちを金網に閉じ込め、1対1でガチンコをさせるバイオレンス性の高い大会でした。カラテ・ジュードー・スモウ・ニンジャなどが金網で戦う、リアルストIIというべき大会だったのです。第1回は体重制限なしのワンデイトーナメントだったのですが、優勝したのは小兵のホイス・グレイシー。当時、ブラジル国外では誰も知らなかったグレイシー柔術の使い手がUFCを制し、「兄のヒクソンは私の10倍強い」と発言したことから、グレイシー幻想はスタートしたのです。

 では、なぜホイスは軽量のハンデを乗り越えて、優勝することができたのでしょうか。1つは、総合格闘技の原型となった「バーリトゥード(VT)」はブラジルで開催されており、グレイシーは「バーリトゥードで勝つことを修練した」柔術家の集団だったからです。町道場の腕自慢の中に、競技を知り尽くし、予習を重ねてきたプロが一人混ざっていたと言ってもいいでしょう。それから大きな要素として、寝技と立ち技の関係性があります。こと、総合格闘技において、「寝技しかできない」人間と「立ち技しかできない」人間が戦えば、基本的に寝技使いが優位です。それはそれぞれのフィールドで、できることを考えればわかりやすくなります。

 スタンドで向かい合っている場合、打撃系選手は優位です。一方、寝技系の選手は、タックルで倒したり、引き込んだりといった手管で、相手を自分のフィールドに引きずりこむ選択肢があります。
 グラウンドでの攻防になった場合、当然寝技系選手が優位です。一方、立ち技系の選手は、もがいてラッキーな脱出を狙うしかありません。

 寝技系選手は、「スタンド→グラウンド」へと持ち込むための投げ・タックル・引き込みといった技術体系を持っているのに対し、立ち技系の選手は、「グラウンド→スタンド」への移行は、基本、ルールの助けを借りるしかありません。寝技系の選手は、一度寝かせた素人を立たせてはくれませんから。さらに立ち技の選手は、目潰し・金的・肘打ち・脊髄への攻撃といった、極めて効果的なオプションの幾つかをルールによって封じられています。もちろん、それは安全面を考えれば当然なのですが、極真空手をバックボーンにリングスなどにも上がった喧嘩屋ジェラルド・コルドーは、執拗な目潰しでホイスの寝技に対抗しました。そのゴルドーは95年の国内バーリトゥード大会で、中井祐樹選手の右目をサミングで失明させ、事実上リングを追われることになるのですが……。

●倒す技術・倒されない技術 
 打撃選手は立っている間に倒すしかなく、タックルに入ってくる選手に対しては、出会い頭で潰せなければ勝利は難しい。こうした打撃系<<寝技系という初期VTの流れは、必然的にひとつの潮流を生みました。それは、「倒す技術」をもった選手の台頭です。先ほど、「寝技に入ったら、グラウンド選手は素人を逃がさない」と書きました。しかし、ヴァーリトゥードには、「相手に馬乗りになって、相手をたこ殴りにする(そして相手が後ろを向いてしまったところを絞め技で仕留める)」という「打のフィニッシュ」も存在しました。グラウンドで相手を極めること、そしてグラウンドで馬乗りになって殴ること。そのフィニッシュに共通しているのは、「相手を倒してグラウンドに持ち込み、自分にとって有利な体制をとる」という過程です。そのため、やがてヴァーリ・トゥードでは「相手を倒す技術」が重視されるようになったのです。

 ここにきて、ブラジリアン柔術に強力なライバルが現れました。それが、アマレス選手たちです。アメリカではアマレスは花形スポーツであり、分厚い選手層に支えられたスポーツエリートの宝庫です。そして彼らは、「組みついて、倒し、相手を制圧する」技術にかけてはスペシャリストでした。もちろん、アマレスラーたちに、関節技を極めるテクニックはありません。しかし、完全にポジショニングを制してしまえば、付け焼刃のパンチを上からゴツン、ゴツンと落としているだけで、相手は壊せます。なんせかれらは100キロの筋肉の塊なのです。「倒す、上になる、殴る」。この、シンプルな方程式は、一時期VT界を席巻しました。

 しかし面白いもので、選手たちは環境にあわせて変化します。アマレスラーの進化に追随するように、今度は打撃系選手・ストライカーもまた、別系統の進化を始めたのです。それは、「タックルで倒されない技術」の習得です。千変万化の寝技の攻防や、相手の上を取るポジショニングなどは、長い修練を重ねる必要があります。しかし、ストライカーの中に、コロンブスの卵的発想が生まれたのです。「倒したり、極めたりする技術は必要ない。なぜなら俺たちはスタンドで殴って倒せるから」という。彼らは、タックルを“切る”技術を集中して習得しました。重心を低く保ち、下半身を後ろに滑らせながら、がぶるようにしてこらえるような技術ですね。また、タックルに入ってくる相手に、カウンターで膝を合わせる技術も発達しました。こうした、「倒しに来る相手への対処法を身につけたストライカー」の完成形のひとつが、ミルコ・クロコップ選手です。このように、「倒されない技術を持ったストライカー」「グラウンドでパンチを手に入れたアマレスラー」「総合的な技術を身につけた柔術系選手」などが入り乱れているのが今の総合格闘技です。

 ですから、選手のバックボーンを見て、その選手の得意とするスタイルを想像できるようになると、こうした未知の選手同士の観戦も面白くなります。アマレス選手と空手家が戦うときは、アマレス選手がタックルで倒して陵辱するか、倒される前に、空手家が打撃で叩き潰すかが見所になるわけです。同じ倒すムーブでもアマレスの「タックルで倒す動き」、柔道の「投げ、崩す動き」、ブラジリアン柔術の「引き込み、下から極める動き」など色々な違いがあるので、そこも見所です。ですから、「総合格闘家」という肩書きだけの人たちは正直面白みがないのですが……ま、そういう時は「格闘家対不良」といった視点を探すと楽しみやすいと思います。

●前田日明の見方
 さて、「THE OUTSIDER」を見る上でもうひとつ欠かせないのが、プロデューサーである前田日明というおっさんの存在です。このおっさんを知っているかどうかで、「THE OUTSIDER」という大会のコク深さが変わってきます。ただ、ここで前田日明論をぶちはじめると日が暮れてしまうので、前田日明エピソードの数々を列挙するので、どういうおっさんが、においをよみとってもらえたらと思います。

・在日韓国人三世として生を受ける。(後に帰化、日本刀と零戦をこよなく愛するコテコテの右寄りのおっさんに)
・「肉が食えるから」という理由で新日本プロレスに
・より格闘技性を追求した「UWF」に参加するが、佐山聡ら他主要メンバーと決裂して解散。後に新日本プロレスにユーターン
・223cmの巨漢レスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントに制裁ガチンコ試合を仕掛けられるが、前田戸惑いながらもアンドレの膝をズタズタに破壊、アンドレは試合放棄、試合映像はお蔵入りに
・長州力に背後からガチ蹴りを入れ、顔面を骨折させる。世に言う「長州顔面蹴撃事件」により、新日本プロレスを解雇される
・第2次UWF立ち上げに参加するが、フロントともめまくって解散
・リングスを立ち上げ、リングスネットワークのロシア・グルジアなどから、過去・現在の格闘技界を背負う多くの格闘家を発掘する
・ライバル団体・パンクラスの社長の胸倉を掴んで訴えられる
・批判的な記事を書いた雑誌編集長を、女子トイレに監禁した
・ライバル団体・UWFインターの安生に背後から殴られて失神した
・アメリカでスタッフの女性とトラブル、殴打して逮捕された
・「K-1 PREMIUM 2007 Dynamite!!」にプレゼンターとして登場するが、何を思ったのか田村潔司にトロフィーを投げつける
・あ、忘れてたけど、現役最後の試合では、1987年から2000年まで国際試合不敗を誇ったグレコローマン・レスリング“人類最強の男”アレクサンドル・カレリンと対戦。内容はともかく、カレリンを引っ張り出した前田の政治力は非凡。ちなみにカレリンは、『グラップラー刃牙』のアレクサンダー・ガーレンのモデル

 こんなおっさんが「不良少年に夢とチャンスを」とか言って大会を企画しているのですから、これはもうお好きな人にはたまらないと言えるでしょう。参加アウトサイダーズの誰かが、解説席の前田に手を出したりしないかな、そして前田が殴りつけて新聞沙汰にならないかな……そんな楽しみ方もできるのが「THE OUTSIDER」なのです。

2008/03/16 14:15 | Comments(0) | TrackBack() | 格闘技
ノゲイラ、UFCヘビー級王座決定戦視聴レポ
 今回は格闘技の話。軽く専門用語連発するので、あまり興味のない人は雰囲気で読んでください。あ、おもいっきりネタバレですが、国内放送の予定ないので……。

 2月2日、米国マンダレイベイでUFC81が開催されました。UFCとは、「アルティメットファイティングチャンピオンシップ」の略で、投・極・打なんでもありの総合格闘技の大会です。いわゆるPRIDEみたいなものですね。違いはリングではなく、八角形の金網(オクタゴン)の中で行われることが特徴です。初期は、空手対忍者、カンフー対柔術のように、全く技術的接点のない格闘家同士が、噛み付き・目潰し以外なんでもありで凄惨なつぶしあいを演じる『グラップラー刃牙』の世界でした。今では若干ルールが緩和されていますが、それでも肘による攻撃が認められた、バイオレンスなルールなことはかわりません。初挑戦者は誰もが八角形の金網の悪魔に恐怖するこの戦場で15年前、屈強な格闘家を残らずなぎ倒し、第一回UFCトーナメントを制覇、世界に名をとどろかせた小兵の柔術衣の男が、ホイス・グレイシーでした。

 どうしても日本国内ではマイナーですが、PRIDEが倒れた今、世界最大・最強の総合格闘技団体はK-1でもHerosでも戦極でもやれんのかでもなく、UFCなのです。PRIDEの崩壊に伴い、多くの格闘家がUFCに流れ、その地位を磐石な物にしています。有名どころでは、ミルコ・クロコップが昨年挑戦。緒戦は勝利で飾ったものの、以後二戦を続けて落としています。そんなUFCに新たに登場したのが、PRIDEで絶対王者・ヒョードルと頂点を争ったわれらがミノタウロ、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラです。UFCもPRIDEのビッグネームに期待してか、なんと二戦目にしてヘビー級暫定王者決定戦に挑戦です。「暫定」とはついていますが、現ヘビー級王者のランディ・クートゥアはUFCを既に離脱済。剥奪しないのは今後の法廷闘争を有利に進めるためと考えられますので、事実上の王座決定戦と言ってもいいでしょう。対戦相手はティム・シルビア。2mを越える体躯から繰り出される打撃のリーチとパワーはかなりのもので、過去2回ヘビー級王者に輝いている難敵です。ノゲイラは柔術出身にも関わらずボクシングテクもそこそこありますが、パワーとリーチがこれだけ違うとどう出るか、注目が集まる対戦です。

 なお、セミファイナルではWWEのスーパースター、ブロック・レスナーがUFC初挑戦。対戦相手はフランク・ミア。交通事故により戦線を離脱していたとはいえ、かつて、メインに出場するシルビアの腕を折ってUFCヘビー級王者に輝いた“ほんまもん”です。ところが戦前の予想に反し、レスナーは開始直後に物凄いテイクダウンを見せ、暴風のようなパウンドで元王者を圧倒……したのですが、あまりに動きが雑で、下から足関節をとられるとあっという間に膝・かかとを極められタップアウト。まさかの圧勝?→あっさり逆転という、わずか90秒の逆転劇でした。あんなにきれいに足関節をとられるガイジンは、パンクラスぐらいでしか見たことがありません。技術は雑で発展途上、ただし元アマレス全米大学選手権優勝の肩書きは伊達ではなく、冒頭で見せたテイクダウンの技術と、ステロイドを抜いてナチュラルな感じになった肉体は本物。ちゃんと練習すると大化けするかもしれません。見ごたえのある試合でしたが、客席にはアンダーテイカーやストーンコールド、セイブルらWWEスーパースターが大挙来場し、ある意味試合以上に豪華でした。しかし、カート・アングルの目の前でアンクルロックで負けるってのはどんな気分なんでしょう。

 さて、セミで脱線してしまいましたが、メインイベントです。以下観戦メモ。

▼メインイベント
UFC世界ヘビー級暫定王者決定戦 2008年2月2日、米国マンダレイベイイベントセンター
●ティム・シルビア(3R 1'28" フロントチョーク)アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ○
※ノゲイラがUFCヘビー級暫定王者に

 第1、第2ラウンドは、シルビアの良さとノゲイラのしぶとさが目立つ展開。とにかくシルビアの腰が重く、ノゲのずぶいタックルではグラウンドに入らせてもらえない。ボクシング勝負になると、シルビアのリーチが物を言う。単調なワンツーがばっすんばっすん入り、ノゲの打撃はシルビアが踏み込んできたタイミングでしかあたらない。ダメージが蓄積し、一時は出血するも、ノゲ死なない。本当にノゲの打たれ強さは異常。

 ミノタウロのマジックか炸裂したのは3R開始40秒。シルビアの膝裏に手を当て、倒れこみながら崩すと、シルビアノゲにのしかかる形で前のめりに倒れる。カニばさみを手でやる感じというか、プロレスの丸め込みっぽい。下になったノゲイラは、両足でシルビアを挟み込むガードポジションへ。逃れようとするシルビアの手足を蜘蛛のように絡めとり、そのままリバースしてノゲイラが上になる。するとそこから、下半身を一瞬で捌いて、サイドポジション(袈裟固めっぽい形)ヘ。長い腕を絡めとりながらシルビアを暴れさせ、シルビアが上体のバネで抜け出そうと体を返した一瞬に、回転しながら巻き込んで首を取る例のムーブで、フロントチョークががっちり入りました。シルビアもう勘弁してくれよって感じですぐタップです。

 寝技に入ってからは完全な詰め将棋でした。倒す瞬間、リバースする瞬間など、常にシルビアの膝裏を取ってコントロールしてたのが印象的。パワーとリーチで上回る相手でも、コントロールできる一点があるってことですね。ま、一旦倒せばこうなります。ああ、やはり寝技で獲れる選手は美しい。

 メインイベントは殴られ、血を流し、どれほどの劣勢でも決して折れないノゲイラの不屈と、グラウンドでの魔術めいたテクニックの両方が見られるお得な試合でした。しかし、前戦のヒーリング戦でも薄氷の勝利でしたし、オクタゴンで戦うには、よりスタンドでの技術の向上が必要な気がします。あれじゃダメージの蓄積ですぐ潰れます。

 ああしかし、なんでUFC日本では放送しないのかなぁ。ミルコやノゲイラももちろんですが、来月1日には、UFCミドル級では敵なしの王者アンテウソン・シウバに、リングスのKOK初代覇者にしてPRIDE二階級制覇のダン・ヘンダーソンが一階級落として挑戦します。こんな面白いコンテンツを放送せず、芸能人や相撲取りの喧嘩が放送されている国内のお寒い状況は、なんとかならないでしょうか。

2008/02/11 21:26 | Comments(3) | TrackBack() | 格闘技

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