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2024/04/20 21:13 |
任天堂の憂鬱Ⅰ
 年末商戦を終えて、据え置きハードに関しては、大きな動きはなさそうです。北米ではWiiとXbox 360の二強、国内では独走するWiiをPS3が追いかける……という構図に目に見える変化はありません。一方、携帯ゲーム分野には大きな動きがありました。新型発売に伴う、PSPの大躍進です。600万~700万台とも言われる国内PSP市場。2000万台を越えているDS市場と比べて「負けている」という表現が多かったPSPですが、現在は「第二位の市場を確保した」というのが正しいでしょう。プレイステーション全盛時代も、任天堂がハードごとの営業黒字を保っていたように、PSPもまた、「負けずに踏みとどまる」だけの市場を確保したといっていいでしょう。

 少なくとも、オタク業界に身を置いている人なら、2007年、特にその後半に、PSPがそのプレゼンスを増していることを否定する人はいないでしょう。久夛良木前SCE会長の独特の感性に基づく発言に対する反感もあり、オタク界では「親任天堂、反ソニー」的感情がかなり大きな勢力を持っていました。実際、僕も「どのハードメーカーを応援する?」と問われれば、セガ無き今は任天堂を推していました。しかし、DSとWiiが主流の世の中になって、ふと気がついたのです。「僕は任天堂を好きだが、任天堂は自分を見てゲームを作っていない」ということに。任天堂頑張れというスタンスはとっていたものの、じゃあ実際に僕が買った次世代機は何かといえばXbox 360なのです(流石に、DSはないと仕事にならないので持ってますが)。

 DSがユーザー層を広げた結果、グラフィックやボイスを求めるユーザーはいなくなってしまったのでしょうか? そんなことはありません。僕らは「グラフィックを追求する姿勢」を否定したのではなく、「60000円のゲーム機」をひとまず見送ったのです。値下げしてもユーザーは動かないではないか、という向きもあるかもしれませんが、一旦負けハードの印象がついたゲーム機にユーザーが冷淡なのは、前世紀から変わりません。スクウェア・エニックスが重すぎる腰を上げるまでは、ユーザーに大きな動きはないと思います。そんな中、グラフィックやボイスだって求める既存のゲーマーたち、そして「Wii的な」ゲーム作りにはやや馴染まないメーカーが参集しつつあるのが、今のPSPだと思います。

 技術屋であるところの久夛良木前会長は、PSPがDSに勝利することを、本気で疑っていなかったと思います。当然です、タッチパネル以外のほぼ全てのハードウェア的な機能で、PSPはDSの上を行っているのですから。ですが実際にはDSは爆発的なシェアを握り、PSPは一旦、負けハードとしてポジションに陥りかけました。これは結局のところ、ハード開発に注力するあまり、ソフトウェア面に関しては「PS2と同じことがPSPでもできる」以上の何かを提示できなかったことが原因だと思います。しかしここに来て、PSPが再浮上してきたのは、ユーザーからの「確かにグラフィックばっかりで中身がスカスカのゲームは困るけど、グラフィックやボイスだって俺たちはほしいんだよ」という声無きメッセージだと思います。

 ここで視点を入れ替えて、任天堂の側から見てみましょう。一人勝ちとも言われる任天堂ハードの強みは何かと考えれば、「圧倒的なシェア」と、「自らが最強のソフトメーカーである任天堂が供給するソフトウェア」だと思います。では、弱点……いえ、制約とはなんでしょうか? それは、「DSが手に入れてしまった圧倒的なシェアそのもの」だというのが、僕の考えです。

 前述したとおり、DSは「シェアや任天堂のソフトウェア、ブランド」を抜きに考えると、PSPよりは性能面で一歩劣るハードです。それでは任天堂が、性能を向上した携帯ハードを出せないのか……と考えると、答は「技術的にはいつだって出せる」だと思います。しかし、実際には出せない。それは、DSがあまりにも普及した、国民機になってしまったからです。かつて、任天堂はファミコンで一世を風靡しました。その次世代、スーパーファミコンでもゲーム界を制覇しました。しかし、その次は? 結果は皆さんご存知の通りです。DSブームというのはこれまで誰も経験のしたことのないユーザー層を相手にしたヒットであり、たとえばより性能が上の「DS2」や「GBA2」を市場投入して、それに現在のユーザーがついてくる保障はどこにもないのです。ですから、任天堂にとっての最適戦略は、可能な限り現在のDS市場を引き伸ばすこと。そのためには、「美麗なグラフィックはゲーム性とは関係ない」と言わざるを得ないのではないでしょうか。

 現在の市場を引き継いだまま、上位機に移行できるなら、任天堂だって喜んでするはずです。しかし、そこには小さくとも、転落の可能性があります。そして、任天堂には、未だかつての転落の記憶の爪痕が、はっきりと残っているでしょう。どれだけ支配的なシェアをとったハードでも、いずれ最前線を走れなくなるのは、プレイステーション2の現状を見ても明らかです。しかし、いよいよもう保たない、という時が来るまでは、任天堂は「ええ、まったく問題ありませんが何か?」とニコニコしながら、創意工夫を搾り出して、新しいソフトを供給し続けるでしょう。それは、決して楽でも安泰なことでもないでしょう。今後には、知育ソフトで入ってきたユーザーを、ゲーマーとして定着させるという難事業が待っているのですから。

 他方、日本のゲーム業界の競争力という視点で見れば、現状はあまりよろしくないと思います。任天堂はDSとWiiというミドルクラスのハードで頑張り、任天堂に乗り切れないメーカーは、PSPとPS2で時間稼ぎをしている状況です。しかし、こうした「足踏み」の間に、米国ではPCゲームとXbox 360を中心としたハイスペックな次世代ゲームの技術的蓄積が進んでいます。現状は「欧米的な技術力」と「日本(任天堂)の発想力」という形でなんとか勝負が出来ています。アメリカ人の好むジャンルは偏ってますしね。しかし、5年後、10年後……はっと気がついたとき、彼我の戦力差は埋めがたいものになっているのではないか、という漠然とした不安があります。発想力は「個人のヘッドハンティング」で埋めることができますが、企業としての基礎開発力はそうはいかないからです。

 ならどうすればいいのか、という処方は、残念ながら出せません。正直、「どうしようもないんじゃないか」とも思います。ああほんと。Xbox 360がもうちょっと売れてくれればなぁ。
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2008/01/04 23:42 | Comments(5) | TrackBack() | 雑記(ゲーム系)

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コメント

初めまして、水渚 翔樹(みぎわ・しょうき)と申します。
ブログの方は毎更新拝見させて頂いております。

今回のエントリの最後に書かれた「どうしようもない~」につきましてですが、
欧米で受けている様な類のゲームが日本でそのまま受け入れられてない事を
考えると正直な所私も同感に感じざるを得ないです。

後、日本が「ハードに合わせてゲームが作られる」のに対し、欧米では
「ゲームに合わせてハードが作られる」というのが一番大きな違いでは
ないのかと思います。


P.S.
> XBox360
日本と欧米とで『キラータイトル』が違うというのが一番の気掛かりです。
posted by 水渚 翔樹 at 2008/01/05 02:09 [ コメントを修正する ]
一般ユーザー視点からのコメントなので、聞き流してくださっても結構です。

正直、PS3は「今は」いらないし、PSPもほしいとは思わない。
でもだからと言って「任天堂に乗り換えるか?」と問われれば、答えはNO。
現状はPS2で満足しているが、ビックタイトルがPS3オンリーででるぞ!と言われれば、買わざるえない。(と思う)
そんな小市民たる自分は、結局「企業の家畜」なのでしょう。(苦笑)
posted by ただの あ at 2008/01/05 15:35 [ コメントを修正する ]
PS3や360のような次世代ハードは、いずれもFPSやTPSといった、ハードの性能を実感できるジャンルのゲームが中心ですよね。実際、世界セールスで見ても、Halo3が800万、Call of Duty4が(両機種合計で)400万という、海外事情に詳しくないファンが聞いたら信じられないような数字が並んでますし。
それが日本だと、Halo3でたったの9万、Cod4で(合計)わずか5万しか売れてないのですから、、、。
こればかりは国民性や文化の違いもあるので一概には言えませんが、まだ海外の優秀なゲームを受け入れるには土壌が整ってないんでしょうかねぇ。
posted by まりんらいなー at 2008/01/05 18:36 [ コメントを修正する ]
海外の優秀なゲームねぇ・・・

俺はこう考えるけどな
任天堂のゲームはいい意味で日本産のアニメ
XBOXのゲームはCGバリバリのハリウッド

どっちかが「上」、どっちかが生き残るべき
なんてナンセンスじゃねーの?
posted by NONAME at 2008/01/07 13:59 [ コメントを修正する ]
どっちが上、というのが問題なのではなく
2つある選択肢の片方を潰しているのが問題なのではないかな。
アイデアしか無い所と、
アイデアも技術も持ってる所が勝負したら答えは明白ですし。

「オンラインゲーム」の場合、
"日本国内のシェア"だけ見ても完全に海外ゲームに押されてる現状、
この先コンシューマ市場もまずい事になっちゃうんじゃないの…と。
posted by Dyst at 2008/01/15 21:26 [ コメントを修正する ]

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