忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/22 05:40 |
麻雀ライターから見た「咲」3巻
 このblogではアニメ・ゲーム関係を中心に取り上げてますが、実は麻雀関係でも幾らか物を書かせてもらってまして。「咲」に関して、「けしからん、ちちももももけしからん!」という言説は界隈にあふれていると思うので、麻雀、そして麻雀漫画としての「咲」について書きたいと思います。

 未読の方のためにさらっと説明しておくと、「咲」は月刊ヤングガンガンで連載中の美少女闘牌漫画です。animate.tvで植田佳奈様と小清水亜美さんがWebラジオを放送中といえば、ぴんと来る人もいるのではないでしょうか。気弱だけどすさまじい素質を秘めた少女咲を中心に、少女たちが本格的な闘牌をくりひろげる作品です。そこはそれヤングガンガンで小林立先生ですから、登場するキャラクターの8割はちちが腫れているか、絶対領域装備のロリっ子。麻雀がわからずとも、かわいい女の子が好きな人なら楽しめると思います。むしろ、牌の並べ方はわかるよ、ぐらいの人が一番素直に楽しめるかもしれません。

 先日発売されたばかりの3巻では、前巻に引き続き地方大会の団体戦の模様が描かれています。3巻でフューチャーされるのは、咲が所属する清澄高校の次鋒・染谷まこと、中堅の部長・竹井久。眼鏡を外すと、過去の対戦から類似の局面のデータを拾い出して対応できる染谷はわりとわかりやすいのですが、問題は部長。5面張に受けずに悪形の高目に受けると、なぜか対戦相手が吸い込まれるように放銃してしまうというスタイルです。部長の実戦譜を引用すると、

 ここから部長は八筒を切ってドラ単騎のリーチを打ちます。普通に考えると、ドラ一萬を切って三筒-六筒-九筒-五筒-八筒待ちの方が上がれそうな気がします。期待値というものを数字にするのは難しいのですが、一番わかりやすく、待ち枚数と得点から目安の数字を出してみましょう。

八筒切り 一萬単騎
ロンアガりすると……リーチドラドラ 5200点
3枚×5200=15600

一萬切り 三筒-六筒-九筒-五筒-八筒待ち 5種17枚
三筒-六筒-九筒でロンアガりすると……リーチ 1300点
五筒-八筒でロンアガりすると……リーチ 1600点
11枚×1300+6枚×1600=23900

 単純に比べると、5面張の方が良さそうですね。実際の局面では、ドラ一萬が2枚河に捨てられていたので、実際には竹井部長の待ちは残りドラ1枚。期待値はさらに1/3になります。これはデジタルな和ちゃんからすれば、確かに理解不能な打牌でしょう。次の局面はもっとあからさまで、

 ここから7ソウ切りをして、中ぶくれのドラ単騎のダマテンに受けます。数字にすると、

7ソウ切り 5ピン単騎
ロンアガりすると……タンヤオ三色ドラ3(親) 18000点
2枚×18000点=36000

黒5ピン切り 2ソウ-5ソウ-8ソウ-4ソウ-7ソウ待ち 5種18枚
2ソウ-5ソウ-8ソウでロンあがりすると……タンピンドラ2 12000点
4ソウでロンアガりすると……タンヤオドラ2 7700点
7ソウでロンアガりすると……タンヤオ三色ドラ2 12000点
11枚×12000+3枚×7700点+3枚×12000点=191100

 と、圧倒的な悪形であることがわかります。この後にも同種の場面は描かれますが、共通した要素は以下のようになります。

・常に悪形を選択するが、相手から河の様子を見ると、とても安全に見える
・悪形ではあるが、常に最高目、高打点の手
・三色など手役を好む

などです。

●実は正統的麻雀漫画の系譜?
 実は最初の牌図の手牌で、竹井部長はドラそばの二萬を先に切ってしまい、ドラを使いにくい形に受け、実際にドラをツモってしまう……というミスをしています。しかし、ここで竹井部長は「ここでツモった一萬には意味がある」と考えています。つまり、単に高さや待ちを考えただけでなく、手順やツモ牌に、意味を読み取ろうとしています。これは、“牌流定石”といった考え方に近い思考で、麻雀漫画の定番です。こうした思考は麻雀漫画によく登場し、たとえば『天牌』では学生麻雀大会で東大生の“よっちん”が、不調時に手順が前後した1ソウツモに意味を見いだし、ドラを切り出してまで1ソウ単騎に受け、ハネ満に仕上げていました。実はこの時のよっちんも竹井部長も単騎牌が裏ドラになっているのも共通です。

 しかし、こうしたツモ牌に意味を見出す打ち方は、本来「自分と山牌」の関係を重視したものです。このツモ牌の流れなら、次はこうツモるはず、という流れですね。しかし、竹井部長の場合は、吸い寄せられるように対戦相手が振り込んでしまう……つまり、相手の振込みを前提にしているのですね。実はこのタイプにも先輩がいて、片山まさゆき先生の闘牌漫画の名作中の名作、『ノーマーク爆牌党』の爆岡がこのタイプ。彼の場合は、対戦相手の手牌の多くを悪魔めいた読みで見切り、一見悪形に見える形で直撃に取り、叩き潰すタイプでした。竹井部長と爆岡の共通点は、“ツモ山を信用していないこと”。どんな好形でも、他家の手牌に使われてしまったり、王牌(最後に14枚残す牌)に残ってしまえば、アガることはできません。しかし、他家から出てくることが“わかって”いるのなら、最強の打点の手で当たり牌を待ち受けるのが当然の一手なのです。

 現時点では、竹井部長が常人の域を超えた読みの使い手なのか、ある種の凶運の持ち主なのかは、はっきりとはわかりませんが。しかし、見せ場の中で2回も“この牌が来た意味は…”というニュアンスの思考があるので、牌の流れを重視し、対戦相手から零れ落ちる当たり牌に対する嗅覚が異常に発達した、“野生”タイプの打ち手な可能性が高い気がします。『兎』に登場しそうな感じですね。幸運の権化や完全デジタルの打ち手が多い作品なので、異質な麻雀を打つ竹井部長、他家を操ることに特化した風越の福路キャプテンなど、幸運でも牌理でもない技術で魅せる打ち手の登場は、厚みが出ていいですね。

 ちなみに、竹井部長がカラテンリーチで他家の放銃を防いた場面がありますが、これも『ノーマーク爆牌党』で、鉄壁くんが「不条理なリーチで爆岡の爆牌リーチを不発にさせ」たり「空テンリーチで爆牌の読みのピントをずらす」といったシーンが重なります。これはもちろん、パクリだ! なんて話ではなく、荒唐無稽な麻雀の美少女漫画と思われがちな「咲」ですが、実のところものすごーくスタンダードで正統派の、麻雀漫画の系譜に繋がる作品なんじゃないかな、と。

 麻雀ファンが主要読者層ではない雑誌で、美少女を隠れ蓑に至極普通の麻雀漫画を連載する……というのは、実はかなりすごいことなのじゃないかな、と思うのです。ああもう、それにしてものどっちの寝姿はけしからんです。

近代麻雀漫画生活さんにコミックスでの修正点に関する指摘が。深い。
PR

2007/11/25 23:57 | Comments(2) | TrackBack() | 麻雀

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

>一萬切り 三筒-六筒-九筒-五筒-八筒待ち 5種18枚
>ロンアガりすると……リーチ 1300点
五-八筒ロンの時は50符ですので1600点です。
九索暗刻8符+四筒暗刻4符+副底20符+門前ロン10符=42符は切り上げて50符1翻。
念のため。
posted by NONAME at 2007/11/26 22:47 [ コメントを修正する ]
あらほんと。
自分の手牌なら誤申告はありえないのですが^^; お恥ずかしい、指摘ありがとうございます。
posted by なかざと at 2007/11/27 19:09 [ コメントを修正する ]

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<Wiiに見る広告スピードの変化 | HOME | 電撃15年祭で一番人気だったひと>>
忍者ブログ[PR]