角川デジックスの福田正社長が、「ハルヒやらき☆すたが売れたのは動画配信サイトに、ユーザーが動画をアップロードしてくれたおかげ」といったニュアンスの発言をし、ユーザーによる動画の無断アップを肯定的に表現したことが話題になっています。これ、原文を見る限りは、海外市場を強く念頭に置いた発言だと思うんですけどね。いずれにしても、この件に関しては賛否両論百花繚乱だと思うんですが、今回はちょっと視点を変えて書いてみたいと思います。
実は僕が気になったのは、「きれいな映像で見たい人は、ちゃんとDVDを買いますよ」というくだりなんです。ユーザーは、より鮮明な画質を求めてDVDを買うのでしょうか? もちろん、そうした面はあります。僕自身学生時代は、レンタルビデオやダビングテープの画質では満足できずに、『エヴァンゲリオン』のLDを買っていました。さらに以前は、OVAなどは購入するしか視聴手段がなかったわけですが。
しかし、今『ハルヒ』や『らき☆すた』は、優れた画質を目当てにDVDが購入されているのでしょうか? 『らき☆すた』はゆるーい日常を描いた内容で、作中には止め絵も多く、高い映像クオリティやアクションを売り物にした作品ではありません。ブルーレイなど新たなメディアが登場するたびに、「果たして、この作品を高精細な映像で視聴する意味はあるのか?」と感じるのですが、作品の品質をメディアのクオリティが追い抜いてしまうと、かえって粗が目立ってしまうこともままあるものです。そもそも、アニメーションは地上派での放送を前提に成立してきたものですから、クオリティ的な基準は概ねテレビです。『FREEDOM』や押井守作品、最近なら『空の境界』や『新ヱヴァ』などの作品をブルーレイで、という需要は理解できます。しかし、地上波のサイクルで制作され、カットによっては作画が崩れることも珍しくないアニメのDVDは、本当に映像クオリティを目当てに購入されているのでしょうか?
DVDやグッズを購入する動機には、「視聴欲求」以外に、「収集欲求」があるのではないかと思うのです。このうち、視聴欲求は、多くの場合、Youtube等での視聴でも十分に満たされるのではないか、と考えています。ストーリーを自然に追える画質で、音声にもさほど劣化はない。Youtubeやニコニコが「耐えられないほどの低画質」だとしたら、携帯等のワンセグ放送があれほど受け入れられるでしょうか。
オタクには、ムーブメントに参加したい欲求、そして消費したい欲求があります。流行に流される“スイーツ(笑)”層をオタクは嘲笑しがちですが、「みんながいいと思う流行りモノに、自分ものっかりたい」という欲求は、オタクだってしっかり持っているのです。コミケの企業ブースには、ものすごい列ができます。その列に徹夜で並ぶファンたちは、販売されるグッズをひとつひとつ吟味して、ぜひ欲しい! と思ったから並ぶのでしょうか? 京アニやTYPE-MOONの限定商品であれば、商品内容の価格と価値がつりあっている限り、「なんだってほしい」んじゃないでしょうか。全く同じものが、アニメイトで普通に販売していて、果たして同じ値段ですべて購入するでしょうか。「映像がいいからDVDを買うのだ」という考えは、「コミケの限定グッズは品質が素晴らしいから売れるのだ」と同じように聞こえるのです。そこには「祭に参加すること自体が楽しい」という視点が欠けています。
『ハルヒ』や『らき☆すた』が売れるのは、それが世代を代表する共通体験だからだと思います。その商品を購入し、本棚やラックに作品が「並んでいること」自体が気持ちいいのです。社会人で日常的にアニメのDVDを買う習慣がある人なら、買ったきり、パッケージを開けていない作品がいくつもあるのではないでしょうか。これは、ハードディスクレコーダーも同様です。全話を録画していることに満足を覚えていても、それを2度見返すことがどれだけあるでしょうか?
世代を代表する作品は、ユーザーにリーチする場面を増やしていけば、より大きなムーブメントを生みます。DVDそのものの売り上げ以上に、関連グッズや音楽CDなどが、核分裂的に売り上げを伸ばしていくのです。ですから、『ハルヒ』や『らき☆すた』、ゲームなら『アイドルマスター』などニコニコ動画と親和性の高いメディアが、コンテンツ削除を行なう必要が低いのは当然です。これは別に、角川やバンナムがユーザーフレンドリーとか、著作権に寛容とか、そんな話ではないのです。
『バンブーブレード』はニコニコでかなりの再生回数でしたが、DVDの売り上げは堅調です(ある程度は売れてます)。はたして、『バンブーブレード』がつまらない作品で、『らき☆すた』は素晴らしい作品だから、この違いは生まれているのでしょうか。僕はそうは思いません。『バンブー』は(その作品規模・予算規模からすれば賞賛すべきな)良作だったと思います。
もし、DVDの購入が本当に画質目当てであるのなら、ダウンロード配信が発達し、DVD相当の映像がダウンロード配信できるようになれば、DVDメディアは廃れていくはずです。しかし、僕はそうなるとは思いません。商品を、パッケージという形のある状態で購入し、手元においておきたい……という欲求・需要は変わらず存在するはずだからです。
わりと話が散ったのでまとめると、
・ユーザーは視聴欲求だけでなく、消費・収集の快楽の為にDVD・グッズを購入する
・こうした傾向は、“みんなが見ている、買っている”作品ほど強くなる
・だから、一部の成功例を全体に適用しちゃうのは怖いよ
と思うんですが、いかがでしょう。
実は僕が気になったのは、「きれいな映像で見たい人は、ちゃんとDVDを買いますよ」というくだりなんです。ユーザーは、より鮮明な画質を求めてDVDを買うのでしょうか? もちろん、そうした面はあります。僕自身学生時代は、レンタルビデオやダビングテープの画質では満足できずに、『エヴァンゲリオン』のLDを買っていました。さらに以前は、OVAなどは購入するしか視聴手段がなかったわけですが。
しかし、今『ハルヒ』や『らき☆すた』は、優れた画質を目当てにDVDが購入されているのでしょうか? 『らき☆すた』はゆるーい日常を描いた内容で、作中には止め絵も多く、高い映像クオリティやアクションを売り物にした作品ではありません。ブルーレイなど新たなメディアが登場するたびに、「果たして、この作品を高精細な映像で視聴する意味はあるのか?」と感じるのですが、作品の品質をメディアのクオリティが追い抜いてしまうと、かえって粗が目立ってしまうこともままあるものです。そもそも、アニメーションは地上派での放送を前提に成立してきたものですから、クオリティ的な基準は概ねテレビです。『FREEDOM』や押井守作品、最近なら『空の境界』や『新ヱヴァ』などの作品をブルーレイで、という需要は理解できます。しかし、地上波のサイクルで制作され、カットによっては作画が崩れることも珍しくないアニメのDVDは、本当に映像クオリティを目当てに購入されているのでしょうか?
DVDやグッズを購入する動機には、「視聴欲求」以外に、「収集欲求」があるのではないかと思うのです。このうち、視聴欲求は、多くの場合、Youtube等での視聴でも十分に満たされるのではないか、と考えています。ストーリーを自然に追える画質で、音声にもさほど劣化はない。Youtubeやニコニコが「耐えられないほどの低画質」だとしたら、携帯等のワンセグ放送があれほど受け入れられるでしょうか。
オタクには、ムーブメントに参加したい欲求、そして消費したい欲求があります。流行に流される“スイーツ(笑)”層をオタクは嘲笑しがちですが、「みんながいいと思う流行りモノに、自分ものっかりたい」という欲求は、オタクだってしっかり持っているのです。コミケの企業ブースには、ものすごい列ができます。その列に徹夜で並ぶファンたちは、販売されるグッズをひとつひとつ吟味して、ぜひ欲しい! と思ったから並ぶのでしょうか? 京アニやTYPE-MOONの限定商品であれば、商品内容の価格と価値がつりあっている限り、「なんだってほしい」んじゃないでしょうか。全く同じものが、アニメイトで普通に販売していて、果たして同じ値段ですべて購入するでしょうか。「映像がいいからDVDを買うのだ」という考えは、「コミケの限定グッズは品質が素晴らしいから売れるのだ」と同じように聞こえるのです。そこには「祭に参加すること自体が楽しい」という視点が欠けています。
『ハルヒ』や『らき☆すた』が売れるのは、それが世代を代表する共通体験だからだと思います。その商品を購入し、本棚やラックに作品が「並んでいること」自体が気持ちいいのです。社会人で日常的にアニメのDVDを買う習慣がある人なら、買ったきり、パッケージを開けていない作品がいくつもあるのではないでしょうか。これは、ハードディスクレコーダーも同様です。全話を録画していることに満足を覚えていても、それを2度見返すことがどれだけあるでしょうか?
世代を代表する作品は、ユーザーにリーチする場面を増やしていけば、より大きなムーブメントを生みます。DVDそのものの売り上げ以上に、関連グッズや音楽CDなどが、核分裂的に売り上げを伸ばしていくのです。ですから、『ハルヒ』や『らき☆すた』、ゲームなら『アイドルマスター』などニコニコ動画と親和性の高いメディアが、コンテンツ削除を行なう必要が低いのは当然です。これは別に、角川やバンナムがユーザーフレンドリーとか、著作権に寛容とか、そんな話ではないのです。
『バンブーブレード』はニコニコでかなりの再生回数でしたが、DVDの売り上げは堅調です(ある程度は売れてます)。はたして、『バンブーブレード』がつまらない作品で、『らき☆すた』は素晴らしい作品だから、この違いは生まれているのでしょうか。僕はそうは思いません。『バンブー』は(その作品規模・予算規模からすれば賞賛すべきな)良作だったと思います。
もし、DVDの購入が本当に画質目当てであるのなら、ダウンロード配信が発達し、DVD相当の映像がダウンロード配信できるようになれば、DVDメディアは廃れていくはずです。しかし、僕はそうなるとは思いません。商品を、パッケージという形のある状態で購入し、手元においておきたい……という欲求・需要は変わらず存在するはずだからです。
わりと話が散ったのでまとめると、
・ユーザーは視聴欲求だけでなく、消費・収集の快楽の為にDVD・グッズを購入する
・こうした傾向は、“みんなが見ている、買っている”作品ほど強くなる
・だから、一部の成功例を全体に適用しちゃうのは怖いよ
と思うんですが、いかがでしょう。
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コメント
「コミケの限定グッズは品質~同じだと聞こえるは流石に言いすぎかなぁと思いましたが、それ以外はほとんど同意でした。
今の時代はお祭に参加したい欲求が顕著に感じますね。(主に若い方)
今は作品の発表が多すぎなのでもしYoutubeなどが無くなったらアニメ系は間違いなく業界縮小すると思います。 電脳コイルみたいな良作はどんどん埋もれていくでしょうね。
DVD買うもう一つの理由として気に入った作品の続編が見たいから、作品の監督を応援したいからというのもあると思います。
興味深いお話で面白かったです。
今の時代はお祭に参加したい欲求が顕著に感じますね。(主に若い方)
今は作品の発表が多すぎなのでもしYoutubeなどが無くなったらアニメ系は間違いなく業界縮小すると思います。 電脳コイルみたいな良作はどんどん埋もれていくでしょうね。
DVD買うもう一つの理由として気に入った作品の続編が見たいから、作品の監督を応援したいからというのもあると思います。
興味深いお話で面白かったです。
posted by RED at
2008/03/18
04:50
[ コメントを修正する ]
VHSやLDの頃から飼い続けている人間としては、やはり好きな作品は所有したいという欲なんじゃないかなー、って思います。
あと、教条的かもしれないけれどそれだけはまらせてくれたんだから、目に見える形でお金を投じるという意味でのお布施でしょうか。
そーいう意味では、まさしく信者ですね。
あと、教条的かもしれないけれどそれだけはまらせてくれたんだから、目に見える形でお金を投じるという意味でのお布施でしょうか。
そーいう意味では、まさしく信者ですね。
posted by シロッコ at
2008/03/18
23:35
[ コメントを修正する ]
逆の事を考えてみる
もし、ニコニコ動画の画質で販売されてたら、DVD買いますか?と
それだったら、自分は今現在所持しているもののほとんどは買ってないと思う
画質が全てとは思わないけど、画質も重要なファクターの一つじゃないですかね?
もし、ニコニコ動画の画質で販売されてたら、DVD買いますか?と
それだったら、自分は今現在所持しているもののほとんどは買ってないと思う
画質が全てとは思わないけど、画質も重要なファクターの一つじゃないですかね?
posted by NONAME at
2008/03/19
15:57
[ コメントを修正する ]
>001
多チャンネル化が進むと、再放送により世代を超えられるのは劇場版だけになりそうな気がします。現状、再放送はCS放送やU局など、より細分化された形でされることがほとんどですから。
>REDさん
ありがとうございます。製作者への「お布施」型のDVD購入ってのは、昭和の感覚になりつつあるのかな、という気がします。昔はみんな思ってましたよね、「俺らが買い支えないと」。
>シロッコさん
LDがDVDになって、場所をとらない、とみんな喜んでましたが、僕は「LDの方がパッケージイラストが大きくて見栄えもいいのになぁ」と思ってましたw
>004
はい、その意味で僕も画質を求める側面もある、と書いています。
しかし、本当に大多数の人が、DVDよりブルーレイのような画質を、AVマニア的な見地から欲しているのでしょうか? 「より高品質な商品の所有は、より所有欲を満たす」側面もあるのではないでしょうか。
そして快楽を伴う消費行動には「値ごろ感」というものも重要な要素です。価格ベースで考えて、粗悪品を買わされて喜ぶ人はいません。
多チャンネル化が進むと、再放送により世代を超えられるのは劇場版だけになりそうな気がします。現状、再放送はCS放送やU局など、より細分化された形でされることがほとんどですから。
>REDさん
ありがとうございます。製作者への「お布施」型のDVD購入ってのは、昭和の感覚になりつつあるのかな、という気がします。昔はみんな思ってましたよね、「俺らが買い支えないと」。
>シロッコさん
LDがDVDになって、場所をとらない、とみんな喜んでましたが、僕は「LDの方がパッケージイラストが大きくて見栄えもいいのになぁ」と思ってましたw
>004
はい、その意味で僕も画質を求める側面もある、と書いています。
しかし、本当に大多数の人が、DVDよりブルーレイのような画質を、AVマニア的な見地から欲しているのでしょうか? 「より高品質な商品の所有は、より所有欲を満たす」側面もあるのではないでしょうか。
そして快楽を伴う消費行動には「値ごろ感」というものも重要な要素です。価格ベースで考えて、粗悪品を買わされて喜ぶ人はいません。
posted by なかざと at
2008/03/19
16:11
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DVDやCD、コミックスでさえもコレクターズグッズであると常々おもっております。
見たいから購入ってどうも考えられないんですよね。
見たいから購入ってどうも考えられないんですよね。
posted by 5loli at
2008/03/20
11:35
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私は、画質目的でDVDは買わないですね。
私もARIAのDVDを2つ持ってますが、私にとってARIAは好きなアニメ作品なのでDVDを買っただけです。
それに画質なんて私は求めませんね(ただしデジタルカメラやビデオカメラは除きますが^^;)
私もARIAのDVDを2つ持ってますが、私にとってARIAは好きなアニメ作品なのでDVDを買っただけです。
それに画質なんて私は求めませんね(ただしデジタルカメラやビデオカメラは除きますが^^;)
posted by kenji at
2008/03/20
19:01
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映像産業は手持ちのコンテンツを定着させる前に次の原作へと走って安易に儲けようとしすぎ。繰り返し再放送して、日常会話(あるいはネット内だけでも)で話のネタに出来るほどの広がりを作って欲しい。